「時間」「場所」をベースに選べる9種類の働き方
その危機感から改革をスタートさせたんですね。具体的にいうと、どのような取り組みを始めたんですか。
恩田さん まず離職率が28%と高くなった翌年の2006年、育児休暇を最大6年間とれる制度をつくりました。この育休制度によって、出産や育児を理由に会社をやめる女性社員はほぼいなくなったと思います。
その翌年には「PS・DS制度」といって、従来どおりにハードワークする働き方(PS)と、残業なし、もしくは短時間勤務(DS)の2つの働き方から、自分のライフスタイルに合わせて選択できる制度を取り入れました。
どちらを選ぶ人のほうが多かったんですか。
恩田さん 導入初期はPSを選択する人のほうが圧倒的に多かったですね。ただ、育休から復帰する人が増えるにつれてDSを選ぶ人も増えていきました。その後、2010年からは在宅勤務が可能となりました。
より多様な働き方が可能になったわけですね。社員一人ひとりの声が反映されやすい労働環境に見えます。
恩田さん 社員から「こういう働き方はできないか」と要望が上がれば、どうしたら希望する働き方が可能になるかをチームで話し合い、それを実践していく。そのころから、こうした風土が会社に根づき始めたと思います。
しかし、社員の声を取り入れて多様性が広がっていくと、2分類の働き方では足りなくなりそうです。
恩田さん そうですね。そこで、「時間」と「場所」を主軸に9つの分類をつくりました。その9分類のなかから自分に当てはまる働き方を選べるような仕組みにしたのですが、その後も働き方のパターンが増え、9分類だけではカバーしきれなくなりました。
なるほど。そうやってトライアンドエラーを重ねるなかで、制度の一部見直しの必要に迫られたんですね。
恩田さん そうです。結果、働き方を分類して、そこから働き方を選ぶという方法をやめました。そのかわりに導入したのが2018年から開始した「働き方宣言制度」です。
100人いれば100通りの「働き方宣言制度」
社員一人ひとりと対話を重ね、9つの働き方から自分に合った働き方を選べるだけでも、かなり先進的な会社に思えます。コロナ禍以降、多くの会社でテレワークが普及しましたが、サイボウズがテレワークを取り入れたのは、まだこの言葉が一般的でなかった2010年のことでした。
サイボウズが導入した「働き方宣言制度」とは、社員一人ひとりに希望の働き方を自由記述式で書いてもらい、チーム(所属部署)のメンバーから合意を得たのち、社内全体に共有する方式です。
それにより「働きやすさ」はどのように変化したのでしょうか。ここからは髙木一史さんを交えて話を聞きます。
「働き方宣言制度」の導入後、具体的にどのような働き方を希望する人が多いのでしょうか。

髙木一史さん(人事本部人事労務部) やっぱり週5日、フルタイムで働く人が大半ですね。短時間勤務や週3日勤務などを希望するのは、全体の15%程度です。サイボウズ以外で働く「複業」も認められています。
「100人いれば、100通りの働き方があってよい」という多様な働き方の実現に大きく近づけたのではないでしょうか。なかでも「働き方宣言制度」のポイントは、社員が選んだ働き方について会社が理由を問わない点です。
会社が「働き方の理由を問わない」とは?
高木さん たとえば、一般的な企業の場合、ある人が家庭の事情で短時間勤務を選んだとしても、フルタイムの人が「なんで子どもがいる社員しか時短勤務ができないんだ?」とモヤッとすることがあるかもしれません。
でもサイボウズの場合、チームのメンバーの合意さえ取れれば、「趣味を優先したいから週休3日にしたい」ということも全然アリです。その人が希望し、チームの合意が得られれば、その働き方を選んだ理由は問われません。
なるほど。理由を問うと、その理由によって働き方の選択肢が変わってくるので、「なぜアイツだけ」という不公平感が生まれる。だから理由は問わないんですね。
恩田さん そうです。この仕組みは、全員に等しく適応できる制度ではなく、個々の「こう働きたい」という希望をかなえられるように整備しました。たとえば、サイボウズの業務のなかには、ときに出社が求められる職種もあります。その場合はやはり、出社ゼロで完全在宅を希望するのはむずかしいことがあります。
そのため、当初は「在宅勤務制度が使える人と使えない人がいるのは不公平だ」という声があったんですね。ところが、実際にその人に完全在宅勤務を希望するかを聞くと「別にしたいわけではない」と言う。希望しないなら、不公平感を解消するために配慮する必要はないですね。
本気で完全在宅勤務を希望した場合はどうしますか?
恩田さん その場合は「業務の進め方や内容を見直す」「在宅勤務ができる別部署に異動する」といった選択肢があります。もちろんそれにはスキルがともなう場合もありますが、会社としては、社員一人ひとりが、自分ができることを認識したうえで、優先順位を決めて選択することをサポートします。社内では希望を実現できず、他社に転職することを検討する場合もあるでしょう。