働き方制度の改善は「福利厚生のためじゃない」
なるほど。シビアですね。「働きやすい会社」と聞くと、「社員思いのいい会社」「社員にやさしい会社」といった印象を抱きます。しかし、「働き方宣言制度」というのは、じつは社員を甘やかす制度ではないんですね。
恩田さん 弊社社長の青野慶久は「働き方制度を改善するのは、福利厚生のためじゃない。生産性を向上させるためだ」と言いました。最優先するのは、あくまでも会社の成長。多様な働き方に対応できる制度をつくることが、結果的にチームの生産性を上げるという考えなんです。
これだけ一人ひとりの働き方が違うと待遇も多様化しそうです。給料はどのように設定するんですか?
高木さん 「働き方(時間・場所)」と「業務内容」をベースに、一人ひとりの会社への貢献度をみて給料を決定します。たとえば、週休5日から3日に変えると作業時間が当然減り、会社への貢献度が下がるケースが多い。その場合は相応に減額した給料でオファーします。
また、年に一度、マネージャーと本部長による「評定会議」を行っているんですが、そのときに社員それぞれの給料について、貢献度と給料のバランスに歪みがないか確認を行うなど、ケースバイケースで検討します。
業績面はどうですか。制度改革を行って働きやすい会社にしたことで、売り上げも伸びていそうです。
高木さん 採用活動における応募数や採用した人材の質を見ても、明らかに成果が出ています。実際に、前の会社では働き方が限定され、辞めざるを得なかったのですが、「サイボウズの働き方なら働ける」と来てくれた優秀な人もいますね。
いまは会社が個人に選ばれる側です。多様性を受け入れ、どんな働き方にも柔軟に対応できる強みがあることで、大企業よりもサイボウズの働き方に共感してもらえるようになってきた。そこは大きな前進だと感じますね。
「働きやすい会社」=「楽な会社」は大間違い
最後に課題についてお聞きします。サイボウズの働き方制度に課題があるなら、それはどんな点ですか。
恩田さん すべての人にサイボウズの働き方がマッチするとは限らない、という面はあります。働き方が個人の意思に委ねられているというのは、逆にいえば自分の働き方と真剣に向き合わなければいけないということ。
それは自立心のない人には「つらい」と感じてしまうかもしれません。ここでいう自立とは、自分で主体的に働き方を選択し、その選択の結果を受け入れるということ。会社というチームのメンバーとして仕事をしながら、家庭や趣味などにどれだけ重点を置くか。自分が何を大事にして、何をあきらめるのか。そこを明確にできないと、ベストな働き方を選択するのはなかなかむずかしいと思います。
サイボウズは、けっして最初から「働きやすい会社」と目指していたわけではありません。どのような会社であっても、もっとも優先されるべきものは「成長」です。
「チームとしての生産性を重視しつつ、『多様性』や『自立』といった企業カルチャーを大切にして個の力を最大限発揮できる制度を考えた結果、働きやすい環境が整備されていった」と高木さんは説明します。
つまり、「働きやすい会社」とは、けっして「楽な会社」という意味ではないということです。とはいえ、自分が希望する働き方ができると聞くと、なんともうらやましく感じます。もしかすると、サイボウズの成功に影響されて今後こういう会社が増えていくかもしれません。
(取材・文/清談社)