労働者なら誰でも「退職強要」「上司のパワハラ」「残業代未払い」といった労働問題の当事者になる可能性があります。こういうとき、労働者の強い味方となるのが労働組合です。会社に組合がない人でも、ユニオン(合同労組)なら個人で加入できます。労働組合はどのように問題を解決してくれるのでしょうか。大手警備会社「テイケイ」の警備員が退職強要を受けた事件をケーススタディに労働組合のメリットを考えてみます。
ホテルの一室に閉じ込めて5時間も退職を強要
まず始めに退職強要事件のあらましを紹介しましょう。
有賀政敏さん(50代)は、およそ3年前の2018年3月に業界大手の警備会社「テイケイ」に入社し、道路工事などの警備員として働いていました。しかし、しばらく働いていると、「この労働条件はおかしい」と感じる部分が出てきたそうです。
そこで、有賀さんは労働条件を改善するために、職場や雇用形態、年齢にかかわらず加入することのできる連合の構成組織である全国ユニオンに加盟する「プレカリアートユニオン」に加入しました。
プレカリアートユニオンの書記長の清水直子さんは、このとき有賀さんが疑問を感じた労働条件についてこう説明します。
「テイケイは警備員として働く従業員に対して、毎週水曜日の午後に営業所まで業務実績報告書を持参し、業務報告と装備点検を行うよう命じていました。その日に勤務がない警備員も、休日にもかかわらず、わざわざ営業所で業務報告を行うのです。
ところが、そうやって命じておきながら、会社はその時間分の賃金を支払わず、交通費も支給しませんでした。そこで、有賀さんは『その分の賃金が支払われないのはおかしい』と声を上げ、2019年4月、こうしたおかしな労働条件を改善するためにプレカリアートユニオンに加入したのです」(清水さん、以下同)
ところが、有賀さんは一緒にプレカリアートユニオンに加入した2人とともに、2019年2月から、福井県の北陸新幹線高架橋工事の見張り員として出張を命じられ、現場近くの寮に寝泊まりすることになります。
「プレカリアートユニオンに加入した直後の5月、そこへ支社長以下4人のテイケイ幹部がやってきて、有賀さんたち3人をビジネスホテルの一室に呼び出し、退職届を書かせたのです。彼らのささいなミスを『重大犯罪だ』『警察沙汰にする』などと責め立てて退職を迫る、明らかな退職強要でした。
有賀さんたちがホテルの一室に呼び出されたのは19時30分ごろで、解放されたのは5時間後の深夜でした。それなのに、会社側は疲労困憊の有賀さんたちに寝る時間も与えず、朝10時までに荷物をまとめて寮から退去するよう命じたのです」