労働組合に加入することにはデメリットもある?

もっとも、労働組合への加入が「自らの損得だけを考えれば短期的にネガティブに働く場合がある」「問題が必ずしもスムーズに解決できることばかりではない」ということも知っておくべきでしょう。じつは、今回の有賀さんのケースでも労働組合加入によるマイナス面が見られました。
テイケイは現在、有賀さんが加入したプレカリアートユニオンとの団体交渉を拒否し、ユニオンの役員や組合員を中傷する文書を大量に送りつけるなどの嫌がらせを行っています。
また、テイケイの本社前で街宣活動を行うと、入り口にはユニオンに対する事実無根の暴言が書かれた白い垂れ幕が大きく掲げられ、テイケイはユニオンの街宣活動が名誉毀損だとして損害賠償を請求する「スラップ訴訟」も起こしています。
さらに、有賀さんが会社側から退職強要を受けたのも、ユニオンに加入して未払い賃金をめぐる団体交渉を申し入れたのがきっかけでした。有賀さんが労働組合に加入せず1人で未払い賃金の請求をしても会社側に相手にされない可能性がありますが、労働組合に加入したことで、会社が過剰反応することもあります。
では、労働組合への加入はリスクなのでしょか。組合に加入せず、退職強要に応じるほうが賢い選択なのでしょうか。
しかし、清水さんによると「今回のテイケイのように、労働組合に過剰な反応を示す企業は滅多にありません」と言います。
「労働組合への加入を理由に、会社側が労働者の不利益となる扱いをすることを『不当労働行為』といい、まずそれ自体が法律違反です。また、私たちは多くの企業と団体交渉をしていますが、そのうちの95%は話し合いだけで問題が解決しています」
つまり、テイケイの対応は全体の5%未満の特殊なケースというわけです。そもそも、労働組合との団体交渉は、会社にとってもコンプライアンス意識を高めるいい機会になります。
「たしかに、なかには労働組合と交渉することに後ろ向きの企業もありますが、話し合いを重ねていくなかで、ほとんどは解決します。労働者は従業員ですが、けっして『奉公人』や『下僕』ではありません。そのことを多くの企業は交渉を通じて理解し、徐々に尊重した態度で労働者と接するようになっていきます」
世の中には退職強要や賃金未払いといった労働問題で苦しんでいる人がたくさんいます。会社に対して「おかしい」と声を上げられない人もいることでしょう。そんなときは労働組合に相談すれば、もしかすると問題が解決するかもしれません。
(取材・文/清談社)