就業規則にない降格・減給処分は一発アウト! 「降格・減給トラブル」に直面したときの対処方法とは?

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 降格や減給に関するトラブルは、労働者なら誰でも直面しうる問題です。実際に「不当な理由で会社側から降格や減給処分を受けた」といった体験談もよく耳にします。そもそも、降格や減給には法律的にどのような問題点があるのでしょうか。また、会社から不当な降格や減給処分を受けたとき、労働者はどう対処すればいいのでしょうか。

 前編では、システムエンジニアの渡辺悟さん(仮名、41歳)が経験した減給・降格トラブルを紹介しました。2回目となる後編は、労働問題に詳しい横浜平和弁護士事務所の大石誠弁護士に減給・降格トラブルの対処法について教えていただきます。(全2回の2回目/前編を読む

「職位の引き下げ」「職能の引き下げ」の違いとは?

 まず降格・減給トラブルの問題点について整理しましょう。大石弁護士によると、ひと口に降格・減給といっても、そこにはいくつかバリエーションがあるそうです。

 「降格に伴う減給には、大きく分けて『職位の引き下げ』と『職能の引き下げ』との2種類があります。『職位の引き下げ』とは役職の更迭などのこと、一方、『職能の引き下げ』は社内の等級の引き下げなどを指します。

 このうち役職の更迭に関しては、会社側に裁量権がありますので、就業規則などの根拠がなくても降格されることが起こり得ます。ただし、降格に伴って賃金が減額される場合は、労働条件の変更になりますので、就業規則などの根拠が必要になります」(大石弁護士、以下同)

 たとえば、ある人が部長から平社員に降格されたとしましょう。これは会社側の人事権の行使にあたるので、就業規則に明記されてなくても受け入れざるをえません。

 しかし、部長から平社員への降格に伴って給料が減額される場合、それを就業規則や賃金規定で定めていなかったら、その処分を受け入れる必要はないわけです。

 それでは、渡辺さんの降格・減給トラブルはどのケースにあたるのでしょうか。渡辺さんはA社にマネージャーとして入社した5日後に経営陣から言いがかりをつけられ、降格とそれに伴う減給処分を言い渡されました。

 「渡辺さんのケースは『職位』ではなく『職能』、等級の引き下げにあたります。一般的に、会社は従業員の等級に伴って賃金を決めていきますので、必然的に等級の引き下げは賃金の減額と連動することになります。

 そうなると、会社側と労働者との間で個別の合意をするなど、減給するためにはなんらかの根拠が必要になります。つまり、就業規則や賃金規定といった根拠に基づいていなければ、この減給処分は違法ということです」

就業規則で定められていても不合理なルールは無効

 渡辺さんが言い渡された降格・減給処分がなぜ違法になるのか、もう少し詳しく説明してもらいましょう。

 「渡辺さんは入社してわずか7日で会社から降格と減給処分を文書で通知されました。この点も悪質ですが、ここではそういった個別事情は大きな問題ではありません。

 就業規則は労使間の一番重要なルールです。ところが、A社には就業規則の定めがありませんでした。にもかかわらず、労働者にとって不利益な『減給』という変更を行ったわけですから、その時点で一発アウトとなります」

 もっとも、就業規則などに「こういう場合は降格しますよ」と定められていたとしても、あきらめる必要はありません。そこにはもうひとつの論点があるからです。

 「仮に就業規則に『降格に伴う減給』の定めがあった場合、次に問題となるのが合理性です。会社内にルールがあったとしても、その定めが不合理なルールだとすれば従わなくてもよい、というのが裁判所の判断です。また人事権の濫用として降格が違法となる場合もあります。」

 渡辺さんは「残業せずに帰宅した」という点を会社側から責められて降格・減給処分を言い渡されました。

 百歩譲って、この残業に関するルールが就業規則に定められていたとしても、そのルールが不合理だと裁判所に判断されれば、その処分は無効になるということです。

 「A社の場合、そもそも就業規則に定めがありませんでしたが、もしA社にそういった社内ルールがあってとしても、私は『降格・減給処分は無効である』と裁判所が判断した可能性が高かったのではないかと思います」

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